民事訴訟において、判決は当事者の主張の範囲内において決まります(処分権主義)。
例えば、現行賃料が月額100万円である場合において、①賃貸人が「相当賃料(継続賃料)は月額150万円である」という賃料増額確認訴訟を提起した場合、判決は『月額100万円~150万円の間』で決定されます。
このような状況で、被告たる賃借人が「継続賃料は月額50万円である」という私的な鑑定評価書を裁判所に提出したとしても、賃借人は賃料減額請求権を行使していないことから、判決の出る範囲は変わりません(月額100万円~150万円の間のまま)。
ところが、②賃借人が「相当賃料(継続賃料)は月額50万円である」と賃料減額請求権を行使したうえで、別途、賃料減額確認訴訟を提起すれば、その訴訟での判決は『月額50万円~100万円の間』で決定されるようになります。
つまり、①の訴訟では『月額100万円~150万円』、もう一方の②の訴訟では『月額50万円~100万円』ということで、同じ賃貸借契約のもとで2つの裁判が行われるという効率の悪い状況が生じてしまいます。また、①の訴訟で適正賃料が120万円という判決が出て、②の訴訟で適正賃料が80万円という判決が出たら、たいへんな混乱が生じてしまうことになります。
そこで、同一訴訟手続きの中で被告が原告を訴える「反訴」により、上記①、②を同じ訴訟手続きで行うという仕組みがあり、効率的な訴訟運営、統一的な解決が図られるわけです。
これにより、①の被告たる賃借人からすると、判決の範囲を、元々の『月額100万円~150万円の間』から、反訴により『月額50万円~150万円の間』へと拡げることにもなります。
実務的には必ずしも多いわけではないと思いますが、反訴という仕組みがあることを知っておくことは、賃料増減額確認訴訟に関与するかもしれない当事者の方々にとって有益なことだろうと思います。(文責:杉若)