かれこれ20年近く前の話で、私が不動産鑑定士になりたての頃の話です。ある地方(関西圏外)の貸し店舗につき、オーナー側から依頼されて継続賃料(家賃)の評価を行いました。各種事例を収集して評価を行ったことは言うまでもありません。
鑑定書を依頼者(&弁護士)に提出してからしばらく経ったころ、事務所に私宛の電話がありました。鑑定書の署名を見て私に目星を付けたのでしょう。たぶん私が直接電話をとったと記憶しています。
「不動産鑑定士の杉若さんという方、そちらにおられるか。」という年配の方からの電話です。「私が杉若ですが」と応えたところ、「おたくの鑑定書見たよ。あんたが採用している賃貸事例Aというのは、●道路沿いの●さんの店舗の事例や。わしは詳細知ってる。おたくの採用してる単価、あれほんまは違う。間違ってる単価をあんたは使って比較してる。それから賃貸事例B、これは△道路沿いの△さんの事例。これもわしが直接△さんに聞いたけど、ちょっと事情のある事例やで。でもおたくはその事情全く考慮してないな」とまくし立てるように話が続きました。そうです、賃借人の方から直接電話があったのです。不動産鑑定士になりたての私は情けないことにシドロモドロで、相手に合わせて会話していました。ひょっとするとこういう対応に慣れている賃借人だったのかもしれません。
この場合、依頼者には弁護士も付いているわけですし、そもそも相手の言っていることが本当かどうかも分からないわけですから、「直接の質問には答えかねるので、まずは依頼者の代理人に連絡を取ってください」と応えるべきでした。
賃料、特に金額の大きい事業用の賃料の改定は、当事者にとって死活問題にもなりかねないものです。当然ですが当事者は必死です。不動産鑑定士は単に依頼を受けて鑑定評価を行うことだけでなく、その前後の対応まで考えて取り組まないといけないことを思い知らされました。(文責:杉若)