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継続賃料評価のイメージ化 Part2

不動産鑑定士 五島 輝美

不動産鑑定士と法律家(裁判官・弁護士)等の職業的専門家に向けて、継続地代評価に関する難しい話を試みる。

目次

Ⅴ 「土地基礎価格をめぐる論争」から「鑑定評価実務の本質的課題」へ

原理・原則にうるさい名古屋の小川鑑定士が「土地基礎価格は底地価格」と主張し、それに対し原理原則の不備な稚拙な鑑定評価基準から評価実務の解放を専ら主張してきた大阪の五島が「基礎価格を底地価格とすることは、現行の評価基準からの論理的破綻である」と対立することは甚だ面白い。この論戦を深めていくことにより、「鑑定評価実務の本質的課題」に辿り着けると期待する。

①土地基礎価格

継続地代評価において、基礎価格は差額配分法と利回り法に登場する鑑定概念であるが、ここでは差額配分法の手順の中で新規地代を積算法により査定する際の基礎価格に限定して解説する。

新規地代を求める場合の基礎価格を更地価格とするか底地価格とするかについて、様々な論述がある。評価の本質論に触れることなしに、実務上は基礎価格を更地価格とした場合には、これに対応する期待利回りを採用しなければならないし、底地価格とした場合には、これに対応する期待利回りを採用しなければならないという要請として処理されてきた。基礎価格を底地価格とする鑑定書が過去に多く見受けられたのは、それまでに発行された継続地代の解説書等に、底地を基礎価格とすることを指示するものがあったこと、地裁判決等において底地価格を基礎価格とするものが多数(大阪では比較的少ない)あったことを、まず挙げることができる。また昭和44年鑑定評価基準には差額配分法の総合的比較考量項目に「(ホ)底地に対する適正利回りの動向」が、平成2年基準においても継続賃料を求める場合の総合的勘案事項の中に「(g)底地に対する適正利回りの推移、動向」、平成14年基準でも継続賃料を求める場合の総合的勘案事項の中に「(7)底地に対する利回りの推移、動向」、現行基準では継続賃料を求める場合の総合的勘案事項の中に「(4)底地に対する利回りの推移」が挙げられていること等も起因する。

②土地基礎価格を底地価格とする説

差額配分法に係る新規地代査定のベースとなる基礎価格を底地価格とする考え方は、底地利回り法から派生したものである。この手法の基本式は「継続地代=(底地価格×利回り)+諸経費等」と表すことができ、底地価格は地代徴収権として地主に帰属する権利価格であるとする認識(※1)に立っている。従って底地価格は収益価格となるが、収益還元法で求めると循環論になるので、取引事例比較法で求めるとされている。しかし底地の取引事例の入手と、仮に入手できたとしても借地契約内容の比較が困難であるので、通常は「土地価格×(1-借地権割合)」で底地価格を査定することで済ませている。

※1 借地契約の成立により地主の地位は地代徴収権に転化するので、地主の権利価格は地代徴収権価格(収益価格)と同一とみなし得る。地代徴収権価格は地代から導かれるもので、これから地代を求めることは矛盾であるが、もし底地価格が取引事例等から求められるならば、これに利回りを乗じて純地代相当部分を査定しこれに諸経費を加えてダイレクトに継続地代を評価する考え方は成り立つ。なお現行基準では独立した継続地代評価手法として規定されずに、試算賃料の調整における総合的勘案事項として「(4)底地に対する利回りの推移」を掲げるだけにトーンダウンしている。

③底地利回り法から派生した誤った考え方の定着

底地利回り法を採用して求めた試算地代と現行地代の開差が大きかったため、その差額の配分額を現行地代に加減して相当地代とした判例が過去に複数出現した。これに影響され、差額配分法の際の新規地代査定ベースとなる基礎価格に底地価格を採用する誤った考え方(※2)が、多くの評価人に定着した。

既述の通り、底地利回り法(ダイレクトに継続地代にアプローチする手法)が基礎価格を底地価格とすることは一応の論理性はある。しかし新規地代査定のベースとなる基礎価格を底地価格とすることは全く次元を異にしている。

※2 地価高騰期に基礎価格を更地価格として新規地代にアプローチすると、現行地代との地代差額が極端に大きくなり、他の試算地代との調整可能な差額配分法による試算地代が求め難いケースが多数出現した。それで基礎価格を底地価格とすることで、新規地代相当額を圧縮する必要が生じた。この差額配分法の便法的処理がコロナ禍にあった当時の継続地代評価において、なぜ生き続けているのかについては、名古屋の小川鑑定士にじっくり聴いてみたい。

④新規地代査定の基礎価格を底地価格とすることの論理的破綻

鑑定評価基準は過去から現在に至るまで「賃料は用益の対価である」とする姿勢を変えていない。(※3)

※3 昭和44年度基準の解説書である「解説不動産鑑定評価基準」の基礎価格の説明文には「基礎価格は、賃貸借等を通じて享受しうる不動産の用益に対応する元本価格を求めるべきであり……」と説明されていたが、現行(平成26年度)基準には、なぜか用益に対応するという記述は消えている。しかし「第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察 第2節 不動産とその価格の特徴」の後段には「(1)不動産の経済価値は、一般に、交換の対価である価格として表示されるとともに、その用益の対価である賃料として表示される」という基準の文言は修正変更なしである。

賃料を用益の対価と規定する鑑定評価基準の原理原則からみると、地主が保有する底地価格を地代算定の基礎価格とする発想余地はない。

⑤基礎価格を底地価格とすることの実務的破綻

基礎価格を更地価格とするか底地価格とするかによって、採用する期待利回りが変化するのであれば、純地代(純賃料)相当額に変化はないはずである。(※4)

※4 更地価格1,000の採用利回りを3%とすれば、底地価格500の採用利回りは6%と判定され、純地代相当額はともに30となるはずである。これでは新規地代相当額を圧縮することができないので、利回りは基礎価格の変化に連動することなしに更地利回りの3%を採用し、純地代相当額を15と判定する便法的処理を行う実務的破綻を見てとれる。

次に平成26年11月より宅地の新規地代を求める手法として追加された、賃貸事業分析法との関連性より生ずる実務的破綻を挙げることができる。賃貸事業分析法は対象地上に建物等の建設を想定し、当該土地付建物の賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の新規地代を求める手法である。この賃貸事業分析法の発想は底地価格を基礎価格として新規地代にアプローチすることを拒否する。

⑥便法的処理を採用せずに適正な差額配分法を行なう方策

下記の3つの試案を紹介したい。

基礎価格を用益に対応する元本価格とすることにより、適正な新規地代を査定する方法(※5)

※5 土地の更地価格(完全所有権価格)は用益価値と資産価値に分離することが可能であり、基礎価格はこのうちの用益価値のみであると考える。すなわち借地人が享受できる利益は用益価値に対応する部分のみで、処分権に関連する資産価値は地主に留保されているのであり、これに対応する部分は地代を構成しないとする考え方である。土地の用益に対応する元本価値を実務的にどのように把握するかについては、基準は昔から今日に至るまで明記することを避けてきたこともあって、その対応は個々の鑑定士の創意工夫に任されてきた。

・差額配分法における配分率で、現行地代との極端に大きな地代差額を処理する。

・極端に大きな地代差額により高位に求められた差額配分法の試算地代を、継続賃料決定に至る調整段階で処理する。

以上の解決策を行使することにより、便法的処理に依存しない差額配分法を適正に行うことは可能と考える。

⑦新規地代査定の基礎価格を底地価格とすることが妥当なケース

法定地上権の成立を前提とする適正地代の査定が該当する。この場合の適正地代は新規地代であることから、積算法によりアプローチするのが一般的である。当該積算法は、対象地の更地価格から現況利用を考量した地上権価格相当額(※6)を控除して求めた底地価格(※7)に適正な期待利回りを乗じて求めた純地代相当額に、公租公課等を加算して適正地代を求める方法である。

※6 土地の最有効使用を乖離した利用がなされている場合には、現況利用に基づく効用発現率を求め、当該効用発現率を標準的地上権割合に乗じて、評価対象の地上権割合を査定する。

※7 法定地上権の負担のある土地を、競売により取得した者(買受人)は地代徴収権としての底地価格をメルクマールに購入意思を決定したわけであるから、基礎価格を底地価格として適正地代にアプローチすることは最も合理性を有する考え方である。継続地代査定において便法的に行われてきた基礎価格を底地価格とする誤った評価と異なり、新規地代評価において基礎価格に底地価格を採用することの許される唯一のケースである。

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