地代値上げ交渉の各ステップ(地代値上げの検討・借地人との話し合い・前置調停と地代増額請求訴訟)において「地主さんが積極的に取り組んでほしい事項」について、説明をします。
①地代値上げの検討
A.値上げの背景(モデルケース)
相続により所有することになった土地(既に第三者に借地権が設定されている)の地代が、著しく安い。固定資産税等の税金を差し 引くと、手元にはわずかしか残らない。どうしてこんなに安いのかを母親に確認すると「見栄っ張りの親父がスナックの美人ママさんに二束三文で貸した。値上げを要求したら人でなしと思われると、ずっと据置きにしてきた」とのこと。地主も借地人も今は代替わりしているので、この機会に地代を値上げしようと考えている。
B.地代値上げの要件
しかし現行地代が単に安いということだけで、地代の値上げは実現できません。「地代が諸事情の変化によって不相当となったこと」と借地契約書に「地代を増額しない特約がないこと」、この2つの要件が必要です。増額しない旨の特約の有無については、土地賃貸借契約書(地代値上げに向けた行動を開始するときは、まず土地賃貸借契約書等の必要書類を、その都度ファイリングしておくことをおすすめします)を確認すればわかるが、諸事情の変化によって不相当となったか否かについては、一定の法的知識が必要なので、この点について若干の説明をします。現行の地代額の合意(当事者間の話し合い、裁判所の調停や判決等)した時点(直近合意時点という。裁判所での地代交渉手続きの調停や訴訟で、頻繁に出現する言葉なので記憶して下さい)以降に、経済的な諸事情の変化があり、現行の地代をそのまま維持することが不相当(現行地代で地主・借地人双方を拘束することが不衡平となった。この言葉も記憶して下さい)となったときに、初めて地代改定は可能となります。
C.地代値上げの根拠となる事実関係の調査
従って地代値上げを検討する場合は、現行地代をいろいろな局面から分析して、現行地代がどのような地代であるかについて、借地人や裁判官に説明できる証拠資料の収集・作成が必要となります。借地権の対象となる土地の登記事項証明書の入手によって地積・土地の形状や具体的な位置等が確認でき、公法上の規制内容や接面道路の概要等を明確にする資料(物の確定に必要となる資料)の収集も必要となります。これには法務局調査、市役所等の行政機関の調査が必要となります。また固定資産税課に赴き、借地の存する土地の公租公課(固定資産税と都市計画税)相当額を示した公課証明書を直近合意時点と改定時点(現時点)について取得することも必要となります。これらの調査は地主本人が行うことがベターですが、都合によりそれができない場合には弁護士等に依頼することになります。なお弁護士は多忙であるので、既述の探偵のような調査はほぼ不可能・不得意なので、ややもすると事実調査を疎かにし法律論争に突入しがちですが、「法律的な判断は私がするのだから、余計なことはするな」と裁判官に言われるのがオチです。医者が病人患者の診察をするように多面的に分析調査をした物件カルテを、この段階で作成する必要があります。(文責:五島)