不動産鑑定士 五島 輝美
地主・家主さんが不動産経営者に変身するための一般教養講座を開始します。第1弾は借地借家法の入門講座です。
借地借家法は60条(※)から構成されていますが、土地と建物の賃貸経営実務を意識して全条をわかりやすく解説しようと考えています。長丁場になると思いますが、お付き合いをお願いします。
(※)借地借家法の構成:1条は借地借家法の趣旨説明、2~25条が借地の法制度、26~40条が借家の法制度、41~60条が借地非訟の制度に関する条文である。
借地と借家の法制度の流れ
明治42年制定の建物保護法(借地権に対抗力を付与)、大正10年制定の借地法と借家法(以下は旧法という)は、他人の土地・建物を利用し生活や営業をする社会的弱者(必ずしも弱者などではないという事象が時代の推移とともに出現し、これが新法制定の動機の一つとなる)を保護することを目的に制定された。
既述の3つの特別法(※)を統合し、それまでに積み重ねられた判例法理を立法化して平成3年10月に公布、平成4年8月に施行された法律が借地借家法(以下は新法という)です。
(※)一般法の一部を適用領域とするのが特別法である。特別法は一般法に優先する。
新法の施行日より前の賃貸借にも新法は遡及的に適用されるが、例外的に新法の適用が否定されるのは、借地契約期間等の条項(3~6条)と借地上の建物が滅失した場合の条項(7・8条)と建物買取請求権に関する条項(13条)、借地条件の変更等の裁判所の代替え許可の条項(17・18条)である。次に新法により制度が変更になったため、新法ではなく旧法の考え方が存続するものとして「借地上の建物の朽廃による借地権の消滅」というルールがある。
以降は条文の流れに沿って、入門講座を進行します。
新法第1条(趣旨)
1条は新法の趣旨を示した条項であり、新法の保護の対象が借地人と建物の賃借人であること、保護の方法が借地権の存続期間と効力、建物賃借権の更新と効力の確保であることを規定し、そして借地条件の変更等の裁判手続きを定めることも示している。
新法第2条(定義)
2条は新法で使われている用語(民法の特別法であるので民法で使われていない5つの用語)の定義が書かれている。借地権、借地権者、借地権設定者、転借地権、転借地権者が5つの用語であり、借家に関しては特別の用語の定義はされていない(新法には借家、借家権という用語は用いられていない)。
ここでは借地権という用語の定義のみ、説明をする。建物の所有を目的とする地上権と土地賃借権を借地権と定義している。権利の種類としては地上権と賃借権(従って賃料支払いを伴わない無償契約である使用借権は借地権ではない)があること、借地権となる要件としては、建物所有目的であること(従って借地上の工作物が建物に該当しない場合は借地権ではない)。
新法第3条(借地権の存続期間)
新法は借地権の存続期間は30年というルールを設定している。
①存続期間を契約で定めなかった場合は、存続期間は30年。
②存続期間を契約で定めた場合は、次の通り。
ア.契約で30年未満とした場合は、特約は無効となり存続期間は30年。
イ.契約で30年以上とした場合は、特約は有効。契約期間の上限はない(30年以上はどれだけ長期でも有効)。
3条は民法の原則を修正しており、民法では地上権は存続期間の制限規定はなく期間を定めないことも可能ですが、新法はこれを修正している。賃借権は令和2年の民法改正により賃借権の存続期間の上限は20年から50年となったが、新法は存続期間の下限(最も短い期間)を30年とした。また民法では賃借期間を特約しなかった場合は期間の定めのない賃借権となるが、新法では賃借期間を特約しなかったときも借地権の存続期間は30年とした。
③新法施行前に設定された借地権の存続期間のルール
旧法では存続期間につき堅固建物所有目的と非堅固建物所有目的(契約に建物の種類と構造を定めないときは非堅固建物所有目的とみなされる)に分け、存続期間を次のように区別していた。
ア.堅固建物所有目的:借地期間を定めないときは60年、借地期間を契約で定めた場合で30年以上と定めたときは有効で、30年未満と定めたときは特約は無効となり借地期間は60年となる。
イ.非堅固建物所有目的:借地期間を定めないときは30年、借地期間を契約で定めた場合で20年以上と定めたときは有効で、20年未満と定めたときは特約は無効となり借地期間は30年となる。
新法第4条(借地権の更新後の期間)
4条は当事者が借地契約を更新する場合の更新後の期間については20年・10年ルールを設定している。
①更新後の存続期間を契約で定めなかった場合は、存続期間は1回目の更新は20年、その後の更新は10年。
②更新に際して存続期間を契約で定めた場合は次の通りである。
ア.定められた存続期間が1回目の更新で20年未満、その後の更新で10年未満 の場合は特約は無効で、存続期間は20・10年となる。
イ.契約で1回目の更新で20年以上、その後の更新で10年以上の場合は、特約は有効。
③新法施行前に設定された借地権の存続期間の更新後のルール
旧法では存続期間につき堅固建物所有目的と非堅固建物所有目的に分け、存続期間を次のように区別していた。
ア.堅固建物所有目的:更新後の借地期間を定めないときは30年、更新後の借地期間を契約で定めた場合で30年以上と定めたときは有効。30年未満と定めたときは特約は無効となり、借地期間は30年となる。
イ.非堅固建物所有目的:更新後の借地期間を定めないときは20年、更新後の借地期間を契約で定めた場合で20年以上と定めたときは有効。20年未満と定めたときは特約は無効となり、借地期間は20年となる。