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借地借家法の入門講座 Part2

不動産鑑定士 五島 輝美

目次

借地上の建物の朽廃による借地権の消滅

新法施行日前(平成4年7月31日まで)に設定された借地権に適用される旧法ルールの一つに「借地上の建物の朽廃による借地権の消滅」があると、入門講座Part1の「・借地と借家の法制度の流れ」の末尾に紹介した。

旧法2条1項の但書には、「借地の存続期間借地権設定時と更新後の借地期間のいずれもについて契約合意がなければ、建物が朽廃したときは借地権が消滅する」と定められていた。旧法のもとで保証されていた権利・利益が、新法施行により重大な変更を被ることは法的安定を害するとの考えのもとで、朽廃(経年の老朽化で建物がなくなる状態を示す旧法の用語)が生き延びた。

ちなみに借地上の建物が消失する原因には、経年の老朽化によるもの、火災や風水害によるもの、借地権者や転借地権者が自ら取り壊す等があるが、新法では建物の消失の原因を問題にしないで「滅失」という用語のもとで、「借地上の建物の滅失は、当然には借地権の消滅事由にはならない」というルールを設定した。新法の7条と8条で、再度このことは解説する。

さて旧法の法律用語である朽廃に関して、「部分的な廃損があるだけでは朽廃とは言えないし、通常の修繕によって建物の効用を全うし得る場合には朽廃にはあたらない」とか「朽廃の状態に達したか否かは、建物を全体的に観察するべきであり、また自然的に達したことが必要であって……」との過去の判例に見るように、老朽化した建物が朽廃したか否かは必ずしも明確ではないので、朽廃をめぐる争いは頻繁に起こった。大阪地裁においても公的(裁判所)鑑定により、朽廃認定(建築士をメインとする鑑定結果で物的検知だけの判断であった)したが、借地人サイドから「相当老朽化していることは認めるが、修繕を加えることによって効用回復できる」との反対主張があり、事件は硬直した。このような曖昧な法的概念である「朽廃」に借地権の存否(※)を関わらせるのは妥当でないとの意見集約により、新法では朽廃を借地権の消滅事由としないことにした。

(※)例えば更地価格は10億円、路線価による借地権割合80%を指標に、借地権価格は8億円とする借地人の思惑に反して、朽廃が認定されると借地権は消滅することになる。

最後に旧法の「朽廃認定は借地存続期間の契約合意がないこと」を前提としているが、このことについて更に注記しておく。旧法では借地設定時に存続期間を定めなかったときは堅固建物60年、非堅固建物30年となり、更新時において存続期間を定めないときは堅固建物30年、非堅固建物20年となる。朽廃が問題となるのはこの存続期間を定めなかったときに当該存続期間内において建物が朽廃した場合であり、借地権設定時及び借地権更新時の存続期間を契約合意した期間内に建物が朽廃しても借地権が消滅することはない。

新法第5条(借地契約の更新請求等)

借地権の存続期間(新法第3条を復習して下さい)満了の際は、借地契約を合意更新しないと契約は終了するはずであるが、借地権は土地上に建物を所有することを目的とする権利であることを鑑みれば、利用者保護の観点から契約の継続性が必要となる。そこで本条は、借地権は期間満了しても一定の事由があれば、当然には消滅せずに法定更新するものとした。

①更新請求による法定更新(5条1項本文)

建物が存在していれば、借地権者の更新の請求(※)により従前と同一の条件で更新したものとみなされる。更新請求できるものは借地権者で、転借地権者はできない。

(※)更新請求は、借地権設定者からの存続期間満了を理由とする明渡し請求を拒絶する方法による意思表示であるのが通常である。

②土地使用継続による法定更新(5条2項本文)

存続期間満了後も、借地権者が土地使用を継続しているときは、1項と同様に法定更新する。但し土地上に建物が存在していることが要件。借地権者が転貸している場合は、転借地権者の使用は借地権者の使用とみなされる(5条3項)。

③借地権設定者の異議

①②の場合に借地権設定者が遅滞なく異議を述べれば、当然には更新しない(5条1項但書)。異議により更新が妨げられるか否かは、正当事由の有無次第である(6条)。

④更新後の借地契約

法定更新されると、従前と同一の条件で契約は更新したものとみなされる(5条1項本文)。但し存続期間は20年・10年ルールに従う(4条)。旧法適用の借地権の場合は、存続期間は堅固建物30年・非堅固建物20年となる。

新法第6条(借地契約の更新拒絶の要件)

借地権設定者が期間満了の際に法定更新を妨げ賃貸借を終了させるには、遅滞なく異議を述べなければならない(5条1項・2項)が、異議を述べるだけでは不十分で、異議に正当事由がある場合に限り、法定更新せずに賃貸借が終了する。

正当事由の存否は、下記の要因を比較考慮して判断される。

  • 賃貸人が土地の使用を必要とする事情
  • 賃借人が土地の使用を必要とする事情

借地契約当事者(賃貸人及び賃借人)の土地使用の必要性が正当事由判定の基本的要因と言われ、この基本的要因をまず比較考慮して正当事由の存否が判断される。次に基本的要因によっても正当事由の有無の判断が決められないときに、初めて次の補充的要因と併せて正当事由の有無が判断されることになる。

  • 借地に関する従前の経緯
  • 土地の利用状況
  • 立退料

立退料も補充的要因の一つにカウントされているが、あくまで正当事由の不足分を補完する要因に過ぎない。立退料さえ提供すれば正当事由がなくても借地契約が更新拒絶できるかの錯覚が多々見受けられる。

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